努力しないで嘆くな。つーか嘆くな、努力しろ。

ISBN:4592143868 コミック 宮野 ともちか 白泉社 2006/01/27 ￥530







もう一度何も無いのよと言いながら、彼女はこちらを振り向いた。背中の中ほどまで伸びた黒髪、白い肌、温度の感じられない瞳、さながら日本人形のような外見をしている。拓人はその立ち姿にゾクっと背筋をこわばらせた。彼女から全く生気を感じなかったからだ。死のうとしている人間とはこうも明確に分かるものなのか。
「私の人生には何も無いの。誇れるものが何も無いの。薄っぺらい友達付き合いも家族ごっこにも飽きてしまったわ。知っている？人間はね、簡単に自らの命を自らの意思で絶つことができるし、それを簡単に選ぶこともできるのよ。」
「いや、死ぬのは良くないです。それだけは断言させてもらいます。」
「ではなんで死んではいけないというの？」
拓人は彼女の冷え切った瞳に直視され動揺してしまった。
「いや、その…。」
「ほら、何か言いなさいよ。あなたの偽善を見せなさいよ。」
「あなたが死んだら悲しむ人がいるでしょう？」
自分で言いながら月並みな答え――まさに偽善だと思う。
「何故死んだ後の事を私が考えなければならないの？死んでしまったらどうでもいいことだわ。」
「俺らはまだ若いじゃないっすか。これからいいことあるかもしれないのにしんでしまうのはもったいないですよ。」
「私は今死にたいのよ。お腹が減ったからご飯を食べるように、眠くなったから寝るように、今死にたい私は今死ぬのよ？今が満たされなければ明日も満たされないわ。」
「あなたが死ぬことを納得していても他の人がどう思っているかは分からないでしょう？あなたを必要としている人がいるかもしれないんですよ？」
「確かに私を必要としている人がいるかもしれないわね、でもそうやって誰かが私の死を否定しているのと同じ理屈で私の死を肯定している人がいるのでしょうね。ほら、視野を広げてごらんなさい。日本人は死んでしまえと思っている外国人もいるでしょう？地球に対して人口が増えすぎたから人口を減らすべきだという人もいるでしょう？常にどこかの誰かに私の死は肯定されているのよ。」